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山口地方裁判所徳山支部 昭和29年(ワ)208号 判決

原告 内山清

被告 本田サワエ

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代理人は訴外北条徳二が下松市大字笠戸島字尾郷第五百八十番宅地七十五坪に対し先に訴外安藤邦光を相手方とし競売申立をなし、山口地方裁判所徳山支部に於て昭和二十八年五月十八日抵当権の実行とし任意競売開始決定し競売申立登記を了し、昭和二十八年九月一日右裁判所がなした競落許可決定の無効なることを確認する。被告本田サワエは原告が訴外安藤邦光に対する売掛商品代金二十四万千九百三十三円の内金十五万円の債権保全のため先に安藤邦光所有の前掲宅地七十五坪に対し山口地方裁判所徳山支部が発した昭和二十七年十月二十七日付仮差押決定並に同年十一月十日付更正決定嘱託により山口地方法務局徳山支局がなした仮差押登記(甲区順位一一番)を同裁判所が昭和二十八年十二月二十六日付を以て其登記原因を競落許可決定なりとし、之が抹消登記を同支局に嘱託し同二十九年一月六日第二四号を以て該仮差押登記の抹消登記をなさしめた該抹消登記の回復手続を原告に対しなすべし、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、原告は前掲債権保全のため当時債務者安藤邦光所有なる前掲宅地に対し前掲仮差押決定並に其更正決定を得、嘱託登記により昭和二十七年十一月十日付受附で甲区順位一一番で登記した。其後訴外北条徳二は乙区順位二番で受附昭和二十八年一月十五日で被担保債権額金二十五万円支払期昭和二十八年四月三十日の抵当権設定登記した、そして期限が来たので昭和二十八年五月十八日競売手続開始決定を受けて競売した上、昭和二十八年九月一日競落許可決定ありて被告が競落人となり其所有権を取得し、昭和二十九年一月六日付で受附第二四号で取得登記した。山口地方裁判所徳山支部では右競落許可が確定したので昭和二十九年一月六日付で丁区十七番抵当権と一番二番抵当権を抹消すると同時に右競落許可決定を原因として原告のなした前記仮差押の抹消を嘱託して之を抹消した。然れども原告は右北条徳二の競売申出によつて競落許可決定があつても、右仮差押登記は北条徳二の抵当権設定登記より以前になされあるから其抵当権を以て原告の仮差押登記に対抗出来ぬし、従て競落人も当然其所有権を原告に対抗することは出来ぬ筈である。又北条徳二の抵当権は原告のなした仮差押登記後に登記されてあるから該抵当権実行の任意競売がなされる時は知れたる仮差押債権者たる原告に債権届出をなすべく催告して届出の機会を与へ届出させ、其仮差押債権額を競売代金中より取つて供託させねばならぬ。然るに原告に何等の通知も催告もしないで競売手続を進行したのは重大な手続上の違背で、其違背は当然右競売による競落許可決定を無効ならしめるものである。そこで何れの点よりするも原告の本件仮差押登記を無効若しくは原告に対抗出来ぬ競落許可決定で抹消するのは違法であるから、之が回復登記を求めると共に右競落許可決定の無効確認を求めると述べた。〈立証省略〉

被告代理人は原告の請求棄却の判決を求め、原告主張の請求原因事実は認めるが原告の主張は法律上理由なきものである。昭和二十七年二月十八日株式会社西日本相互銀行が根抵当権の登記をし、昭和二十七年十一月十日原告が仮差押の登記をし昭和二十七年十一月十九日本田重が抵当権の登記をし、昭和二十八年一月十七日北条徳二が抵当権の登記をし、その北条徳二の競売の申立により本件の競売が行はれ被告は代金一万三千円で競落し、その代金は昭和二十八年十二月二十五日支払い裁判所は昭和二十八年十二月二十六日付を以て競落による所有権移転登記並に不動産上の負担の抹消登記を嘱託し、昭和二十九年二月一日裁判所は競落代金の内三千四百六十八円は共益費用に残り、九千五百三十二円は前示株式会社西日本相互銀行に交付した。だから原告は仮に訴外安藤邦光に対し債権があつたとしても、本件不動産より最早何等の弁済をも受け得られないものであることは明白であると述べた。〈立証省略〉

理由

処分禁止の仮処分登記ある不動産に付抵当権の設定を受けた抵当権者はその抵当権に基き該不動産の任意競売を申立てることは出来ないが、仮差押の登記ある不動産に付抵当権の設定を受けた抵当権者はその抵当権に基き該不動産の任意競売を申立てることが出来る。唯その抵当権は仮差押債権者に対抗出来ない結果、競落代金の内より先づ仮差押債権者の債権の支払に必要な金額を供託しその残額に付てのみ債権の支払を受け得るものとするを正当な解釈とする、仮差押登記後の抵当権は仮差押債権者に対抗出来ないのであるから、任意競売の申立をすることが出来ないとか或は任意競売をしてもその以前の仮差押登記を抹消することは出来ず、最後迄残して置かねばならんと云ふが如きは殆ど仮差押に優先権を認めるに等しく、仮差押に優先権を認めないわが国に於てはこの説は採用し難い。以上の法理を以て本件に臨むに原告は仮処分債権者でなく単に仮差押債権者に過ぎないから裁判所がその登記後になされた抵当権者ではあるが北条徳二の申立に基き本件任意競売を実行したのは相当である。しかしてそれ丈けならば競落代金の内から先づ原告に対し供託すべきであつたが、本件では原告の仮差押登記以前に根抵当権者株式会社西日本相互銀行があつたからそれに対し交付したところ何等剰余がなかつたため(この事実は成立に争のない乙第一、二号証により認められる)原告に対し少しも供託出来なかつたのは蓋し止むを得ないことゝ云はねばならない。以上の如く本件競売は適法であるから裁判所がその競売後原告の仮差押登記を抹消したのは固より当然である。仮に原告主張の如く裁判所が仮差押債権者になすべき通知も催告もせず、裁判所の本件競落代金の交付方法が悪かつたとしても、それは被告が競落代金を支払い完全な所有権を得た後のことであるから、それにより被告の競落の効力に寸毫の影響があるべきでない。原告は適法な配当を実施した後でなければ仮差押の登記を抹消出来ないと主張するが、競売法第三十三条第一項には競落人は競落を許す決定が確定したる後直ちに代価を裁判所に支払ふことを要す、此場合に於ては裁判所は其裁判の謄本を添へ競売人が取得したる権利の移転の登記を管轄裁判所に嘱託すべしとあり、同条第二項の其残金を之を受取るべき者に交付したる後嘱託すべきことを規定せず、しかして競落人に対抗出来ない登記はすべて抹消すべきであるから該主張も採用出来ない。そこで原告の本訴請求を失当とし民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の如く判決する。

(裁判官 河辺義一)

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